私は覚えるのに大変苦労した覚えがあります。
工業地帯だけでなく工業地域まであって、「地帯」なのか「地域」なのかややこしい。
そんなことを思い出して、大人になった今、そこんところどうなんだろうと学習しなおしてみました。
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そもそも「地帯」と「地域」の違いって何?
結論から先に申し上げますと、「工業地帯」と「工業地域」という呼び名の使い方に明確な基準はないそうです。
・・・な、なんだってー!?
それでもなんとか両者の違いを表そうとすると以下のようになります。
- 工業地域
工場がたくさんあるところ。
- 工業地帯
工業地域の中でも、交通路に沿って帯状に広がるもの。各種の業種が総合的に発達して、相互に関連性がある地域。一般的には、歴史的な背景から京浜・阪神・中京・北九州のみを「工業地帯」と呼ぶ。
要するに、ただそう言い慣わしてきたからそう呼んでいるだけってことのようです。
まあ、テストとかでは教科書通りに答える必要がありますが、日常生活ではどっちでも構わないようです。ああ、日常生活ではほとんど使わないワードですね。
「四大工業地帯は日本の成長を支えてきた工業地域なのでランクが上」
という程度の認識でも文句は言われなさそうなので、覚えやすいしそう覚えておくことにしました。
なんでこんなに覚えることが増えたのか
こんなに拡散しなければ学生の頃に苦労しなくても済んだのに。
なぜこうも各地で工業が発展していったのでしょうか。
工業が発達するにはいくつかの条件がそろった場所が必要になります。
- 工業用地・工業用水が得やすい場所
- 労働力が得やすい人口の多い場所
- 輸出入に便利な港がある場所
これらの条件がそろっているのがあの有名な「太平洋ベルト」です。
明治時代になって、日本は工業化を目指します。
いわゆる「殖産興業」ってやつですね。
当時の主要な輸出品は「生糸」です。
日本の生糸は品質が良かったらしく、ヨーロッパでは、良質な日本生糸のことを生産地にちなんで「前橋(マイバシ:Mybashi,Maibashi)」と呼んでいた程でした。
とにかく日本の近代工業は製糸業、紡績業からスタートしたわけです。
それで現在「四大工業地帯」と呼ばれる4つのうち、もともと大都市だった京浜・阪神・中京周辺はどんどん工業が発達していきました。
残るもう一つの工業地帯である北九州工業地帯が発達するのは日清戦争後です。
九州の筑豊炭田から採れる石炭と、中国から輸入した鉄鉱石を利用するのに便利な北九州に、1901年に「八幡製鉄所」が建てられたのが始まりです。
その後、韓国併合(1910年)があり、朝鮮半島への投資の後方の生産基盤としても発達していきました。
ところが、戦後、日本が高度経済成長期に入ると、大都市の過密化や交通渋滞や公害の問題が発生しました。
さらに、地価が上昇して工業用地の確保が難しくなり、また、労働賃金が上昇して生産効率が悪化していきました。
都市部がこういった問題に直面している中、日本国内の交通網が発達してきたことと、地方の経済発展のために工場を誘致しようとする地域が現れたことで、既存の工業地帯にあった工場が移転していきました。
そうして新たな工業地域が誕生していったということなのでした。
三大工業地帯〜仲間外れにされた北九州工業「地域」くん〜
最近の教科書では、京浜・阪神・中京の3つを「三大工業地帯」と呼び、北九州は「工業地域」に分類されているものもあるそうです。
かわいそうな「北九州工業地帯くん」。
でも僕は、「四大工業地帯は日本の成長を支えてきた工業地域なのでランクが上」って覚えることにしたから、僕の中ではいつまでも北九州工業地帯だよ。
たしかに、工業生産額を比べてみると・・・「俺は四天王の中でも最弱」状態です。
経済産業省「工業統計調査」より
そんな北九州工業「地帯」ですが、変わりつつあるようです。
以前から九州は「シリコンアイランド」なんて呼ばれていて、ICの生産が盛んであることは有名です。
近年では、それに加え「カーアイランド」と呼ばれるようになってきています。
というのも、2000年代に入ってから、日産・トヨタ・ダイハツ・川崎重工業といった自動車関連企業が九州に工場をつくり、アジア向けの自動車を生産するようになったからです。
「アジア一体工業地帯」として生まれ変わろうとしています。
なぜ九州に移転してきたのかは歴史が教えてくれます。
八幡製鉄所ができた理由と似ているのです。
アジア(特に中国・韓国)に近いからです。
特に、日産自動車では日本と韓国の両方を走行できるトレーラーを用意し、積み替えのない部品輸送を行っています。
○九州地方の自動車生産台数と全国シェア
九州経済産業局「リサーチ九州」より
グラフを見ると、全国シェアが1990年代後半と比べると約3倍に伸びていることが分かります。
○九州地方のIC生産量と生産額
九州経済産業局「リサーチ九州」より
北九州以外の注目すべき工業地域
時代の変化とともに生まれ変わりつつある北九州工業「地帯」のように、発展しつつある工業地域があります。
まずは北陸工業地域です。
北九州と同じく、北東アジア(特に中国・ロシア)に近い立地を活かしてグイグイ来そうです。
三大都市圏とほぼ等距離に位置することや、北陸新幹線での交通面での利便性の向上、対岸諸国の世界経済における台頭、豊富な電力などが理由です。
自然条件においても、大量の積雪により工業用水が得やすいことが有利に働きます。
私の中での「輪島塗とめがね枠をガンガン作ってる地方」というイメージが払拭されました。
お次は北関東工業地域です。
これは茨城県、栃木県、群馬県にまたがる工業地域です。
関東内陸工業地域と県がかぶっていますが、新しい工業地域だから仕方ないですね。
なんといっても、ここは2011年に北関東自動車道が開通したことが大きいです。
高速道路周辺に工場が立ち並ぶことから「北関東横断工場ロード」なんて呼ばれています。
お次は「第2の豊田市」が生まれるかもしれない東北地方。
これは「東北工業地域」と呼ぶのか「仙台工業地域」と呼ぶのか分かりませんが、とにかく東北にも変化が。
宮城県大衡村にトヨタの工場が作られ、せっせとカローラを生産しているのです。
ほかにもソーラーフロンティアの太陽電池工場や東京エレクトロンの半導体工場が進出。
東北自動車道周辺に半導体工場が進出して「シリコンロード」なんて呼ばれるだけでしたが、いよいよ工業地域となるのか。
最後のご紹介は中国地方(中でも山陰地方)です。
山陽地方は瀬戸内工業地域ですが、これからは日本海側、山陰地方がアツいかもです。
その名も「グローバルニッチトップベルト」。
世界シェアの高い、けれどもニッチな産業が多数進出してきています。
代表的なのは医療機器メーカーのテルモ。
心臓血管のカテーテル治療に使う「ガイドワイヤー」というものを作っているそうです。
その世界シェアはなんと約6割。
山陰地方が注目されたのは、自然災害(特に地震・津波のリスク)が少ないことが評価されてのことです。
さいごに
日本が時代とともに変わりつつある。
調べていてそんな感じがしました。
ちょっと寂しい気持ちと、これからの変化に期待する気持ちが半々です。
少し前のバカみたいな円高が終了し、生産拠点が少し戻ってきているみたいです。
新興国でのコスト上昇も国内回帰の原因の一つでしょう。
そうして作られた新しい工業地域が雇用を生み、地方の経済発展に繋がると良いですね。
後半に紹介した「新四大工業地帯」の未来が輝かしいものになりますように。
・・・ん?
あれ、覚えることまた増えてる。
「工業地域」なのに「新四大工業地帯」って呼ぶの?
あれ、もっと複雑になってる。
んー、10年後の子供たちの教科書があまり分厚くなりませんように。
ここまで読んでいただきありがとうございました。