気が付けばもう11月です。
あと一ヶ月もすれば天皇誕生日ですね。
日本では天皇誕生日周辺でイチゴの需要が増えます。
いったいなぜなのでしょうか?
ではなく。
イチゴといえば栃木県の「とちおとめ」が有名です。
栃木県はイチゴの出荷量も日本一です。
順位 | 都道府県 | 生産量(t) | 全国比 |
---|---|---|---|
1 | 栃木県 | 25400 | 15.5% |
2 | 福岡県 | 17200 | 10.5% |
3 | 熊本県 | 11600 | 7.1% |
4 | 静岡県 | 11100 | 6.8% |
5 | 長崎県 | 10600 | 6.5% |
- | 全国 | 164000 | 100% |
統計を見ると、2位の福岡の1.5倍の生産量です。
栃木県は本来稲作がさかんな地域です。
現在でも、お米の収穫量・作付面積はともに全国8位。
栃木県の耕地面積124500haのうち97100haが水田で、耕地面積に占める水田の割合は77%に上り、これは全国で14番目に多い割合です。
そんな栃木県がイチゴの生産量日本一なのはなぜなのでしょうか。
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イチゴの育成に適した自然条件
イチゴはバラ科の植物で、リンゴや桃と同じ仲間です。
ちなみに、イチゴは分類上は「野菜」に属します。
ただ、青果市場では消費者の立場に立って「くだもの」として扱っているそうです。
イチゴが生育するのに適した気温は18度〜25度くらいです。
ただし、実が成るには一度寒さを経験する必要があります。
なので、時期でいうと春〜初夏にかけて花を咲かせ、初夏の頃に赤い実をつけます。暑さには比較的弱く、やや冷涼な気候を好みます。
一般的に、くだものがおいしく育つには、
- 日照時間が長い
- 昼と夜の気温差(日較差)が大きい
栃木県は、夏は高温多雨で雷が多いのですが、冬は昼夜の寒暖差(日較差)が大きく日照時間が長いのが特徴です。そのような栃木の気候がイチゴに適しているのです。
冬の間の太陽が栃木のイチゴをおいしくしているのです。
夜冷育苗と高冷地育苗
東京都中央卸売市場「産地別」の平成27年度より作成
栃木県の月別出荷量を見てみると、11月頃からの出荷が多くなっていることがわかります。
しかし、普段私たちがスーパーなどで目にするイチゴは「一季成り性」といって、一度「寒さ」を経験しないと実が成らないものです。
そうしないと「花芽分化」という現象が起こらず、実をつけません。
最も販売価格が高くなるクリスマスシーズンに合わせるためには、促成栽培が必要になります。そこで「夜冷育苗」と「高冷地育苗」という方法で、夏の間に寒さを経験させます。
夜冷育苗とは、昼に太陽にあてる時間を短くして、夜はクーラーや地下水を利用し苗を冷やして育てる方法です。
一方、高冷地育苗は、夏でも涼しい高原に苗を植えて育てる方法です。
「山あげ育苗」とも呼ばれます。
親株元から伸びたランナー(子苗)をポット等に植え替えてお引越しします。
栃木県は日光連山など周囲を高原に囲まれており、高冷地育苗をするのに適する場所があります。
だから夏の間、栃木の平野部からイチゴが消えるそうですよ。
このような育成方法が開発されたことで、イチゴは大変収益性の高い作物となりました。そして、これらの農法が栃木の地形的特徴にマッチしていたのです。
イチゴ農家・自治体・JAが協力して作ったイチゴ王国
静岡県は明治時代から産地として有名で、イチゴの生産が盛んでした。
九州地方は野菜や畜産など稲作以外に力を入れてきた地域です。
それらの地域に比べ、もともと栃木県のイチゴの生産量は、全国的に見ても少ない方でした。
栃木県では明治40年代からイチゴの作付けを行うようになりましたが、第二次世界大戦の戦況悪化に伴い、イチゴは不要作物として生産を制限または禁止されてしまいました。なので、戦後になってほぼゼロからのスタートだったといえます。
そんな中、稲作の裏作として注目されたのがイチゴだったのです。
1952年に麦類の統制が廃止されたことや、化学繊維の進出により大麻の価格が下落したことなどにより、新作物の導入試験が行われました。
その新作物の中にイチゴが入っていたのでした。
野菜の生産が盛んな他県と比べ、栃木県は先に述べたように稲作地帯でした。
麦の二毛作で収入を得ていた栃木県の農家の方々にとってイチゴは最適な作物だったのです。
そして、栃木県でイチゴの生産量を増やすべく、多くの方々が一丸となって取り組みを行いました。
イチゴ農家、JA、自治体が協力してイチゴの品質向上、PRを行いました。
流通に関してはJAが主導で行い、栽培技術に関することを自治体が担当しました。
そうやってJAと自治体がタッグを組み、「栃木のいちご」というブランドを確立していきました。
イチゴの品種改良戦争
1996年に品種登録されたのが有名な「とちおとめ」です。
粒が大きく、キレイな赤色で、甘みと酸味のバランスが取れているのが特徴です。
「女峰」に次ぐ新品種として出荷されるようになりました。
品種登録をすると新品種の育成者は一定期間、その品種の生産を独占できます。
たいてい新品種の育成者は「県」です。
県が県内の農家に育ててもらって収益を上げるわけです。
他県の農家が栽培するには許諾料が必要になってしまうわけです。
しかし、その期間が過ぎ、「茨城産とちおとめ」や「北海道産とちおとめ」など他県産のとちおとめの流通が解禁されました。
さらに福岡県で「あまおう」が品種登録されるなど、ライバルが増えていきました。
そこで長年かけて改良された新品種が2011年に誕生しました。
その名も「スカイベリー」。
生産されるスカイベリーの6割の一粒の大きさがなんと25グラム以上もある大きなイチゴです。
大きくても糖度が高く、甘みと酸味のバランスが絶妙で、おいしいと評判だそうです。
「イチゴ王国栃木」はまだまだ安泰みたいですね。
TPPに参加してもイケそうなイチゴ産業
日本がTPPに参加すると、安価な農作物が流入することで、日本の農業が大打撃を受けることになると言われています。
しかし、イチゴに関してはそうはいかないようです。
現在イチゴの1kg当たりの価格は輸入ものが100〜130円。
国産イチゴでは約1000円となっています。
農林水産省「野菜生産出荷統計」より
それでも、国産生産量約16万トンに対して輸入量は3500トンほどです。
しかも、輸入量はここ10年ほぼ横ばいと言って良いです。
農林水産省「野菜生産出荷統計」より
これほどに価格的に有利であるにもかかわらず、輸入物は6〜11月の国内流通量が少ない時期にわずかに輸入されるくらいです。
その最大の理由は「味」です。
当然ですが、アメリカなどで作られるイチゴは国産のものと品種が違います。
アメリカなどで作られる輸入物のイチゴは酸味が強く、甘みが少ないのです。
さらに一粒がやたらに大きく、国産に比べて硬いのも日本人の好みに合わないのだそうです。
国産のイチゴは、各県で品種改良という競争を行っていますが、輸入ものとは完全に品種が異なるために、外国産地との競争が起こらず、結果として価格が安定することになります。
これはイチゴ農家にとっては非常に魅力的なことでしょう。
日本人のニーズに合わせて特化してきたことで価格競争に勝てているのです。
栃木県ではイチゴ農家が廃業するということはほとんどないそうです。
むしろ家業を継ぐ若者が多いのだそうです。
イチゴの収益性の高さと、ハウス栽培により天候の影響をあまり受けないので、ある程度安定した年間収入を得られるからだそうです。
イチゴを育てるには初期の設備投資が高額になりますが、家業を継ぐのであればそれも不要。
ほかの作物と比べると非常に恵まれているようです。
さいごに
長くなりましたが、まとめると栃木県がイチゴ生産量日本一になった理由は3つ。
- イチゴの生産に適した自然条件がそろっていること
- 品種改良や流通経路など、栃木県全体でイチゴ生産に力をいれてきたこと
- イチゴが収益性の高い作物であること
戦後、世の中がどんどん変わっていき、どうなっていくのか分からない中、栃木県の方々は一丸となってイチゴに賭け、勝利を得たのです。
現代も激動の世の中と言われていますが、情報が渦巻く現代と違って、何もわからない手探り状態で始まったのではないかと想像します。
「栃木のイチゴを日本一にする」という、みんなが同じ方向を向いて行動できたというところに感銘を受けました。
県とJAの明確な役割分担と協力体制。
そして何よりイチゴ農家の方々の日々の努力があってこそ、今日の栄耀があるわけですね。
ほんとうに勉強になりました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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栃木県のイチゴの月別出荷量データは、平成26年産野菜生産出荷統計のどこから参照したのでしょうか?該当資料を拝見しましたが、月別の出荷量に関する情報の掲載箇所が見当たりませんでした。教えて頂けますと幸いです
ご指摘ありがとうございます。出典の表記が間違っておりました。記事の出典を修正しました。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。