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2018年06月13日

児童虐待について


児童福祉法第1条
@すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。
Aすべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。


東京都目黒区で、5才の女の子が親による児童虐待で亡くなるという事件が起こってしまいました。
「また虐待かよ」と思いながらニュースを見ていたら、大きなショックを受けました。
亡くなった5才の女の子が残した「反省文」とやらを聞いていて、テレビを消しました。
聞いていられませんでした。


なぜこのような痛ましい事件が起こってしまったのか。
なぜ未然に防げなかったのか、と思うばかりです。


児童虐待の種類

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このグラフは、平成28年の児童虐待の内容別件数と割合を表しています。
児童虐待防止法では、虐待行為そのものに刑罰を定めていません。
別途、刑法を適用して刑罰が決まります。


  • 身体的虐待

    殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
    暴行罪、傷害罪、傷害致死罪など


  • ネグレクト

    家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
    保護責任者遺棄致死罪、遺棄等致死罪など


  • 性的虐待

    子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
    強制わいせつ罪など


  • 心理的虐待

    言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、DVなど
    暴行罪、脅迫罪、強要罪、監禁罪など


児童虐待の過半数を占めるのが「心理的虐待」です。
どんな内容の虐待か知らなくても、その名前からどれだけ厄介なものか想像に難くないでしょう。
身体的虐待と異なり、痕跡が残らないので「認知しにくい」のです。
虐待を行う親に口止めされでもしたら・・・


親しか頼るものの無い幼児にとって、これらの行為がどれだけ苦しいことか、私には想像もつきません。
たとえ親に直接死に至らしめられることがなくても、自殺に追い込まれたら同じことです。
どのような種類の虐待であれ、「死」の危険性があることが恐ろしい。
それに比べて、どの虐待でも刑が軽いように思ってしまいます。
未必の故意ってことで殺人罪を適用しても良いのではないかと思うのです。


年々増加する児童虐待相談件数

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このグラフは、児童相談所が児童虐待として対応した件数と、児童虐待によって死亡した人数を表しています。
ここから、相談件数が上がり続けていることと死亡事例が減っていることが分かります。
未成年者の数は平成28年11月の段階で約2180万人。対して平成28年の相談件数が122578件。
ざっと約178人に一人が虐待を受けていることになります。


相談件数が上がり続けているのは、児童虐待に対応する児童福祉司の増加によるものです。
平成18年に2139人だった児童福祉司の数は、平成28年には3030人に増えています。
つまり、今までは発覚してこなかった、もしくは対応できなかった児童虐待が、児童相談所の体制強化によって認知されるようになっただけなのです。
考えるのも恐ろしいですが、平成18年にも平成28年と同じくらいの児童虐待があったかもしれないのです。
ということは、平成18年には約8万件もの児童虐待が、認知されずに続いていた可能性が高いのです。


また、死亡事例が減っているのも、児童相談所の体制強化によるものだと考えられます。
勤続年数5年以上の児童福祉司の数は、平成23年の36%から平成27年には42%に増えています。
(厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課調べ)
児童福祉司数の増加と、経験値の向上によって、悲しい事件が未然に防げるようになってきているといえるのではないでしょうか。


児童相談所の体制強化の必要性

職員の数は増えていますが、まだまだ不足しています。
例えば、平成28年、東京都の児童相談所では12494件が児童虐待として扱われました。
平成28年の児童福祉司の数は227人。
一年間に一人当たり55件を担当していたことになります。
児童福祉司は、児童虐待だけを担当しているわけではありません。
せいぜい20件くらいが限界なのではないでしょうか。
下の地図は、児童福祉司1人当たりの担当件数別に色分けしたものです。
厚生労働省は、児童福祉司1人当たり40件を想定していますが、それを超える都道府県がいくつかあります。


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厚生労働省は、今後も児童相談所の体制強化を進めていくようです。
これまでの児童福祉司の標準的な配置数(地域人口4〜7万人に1人)を見直して、もっと増やす計画です。
新しい計算式でざっと計算すると、東京都には321人の児童福祉司が必要になります。
厚生労働省が出した新たな配置標準数から、まだまだ不足している状況です。
かといって、一気に増やして職員の教育がおろそかになるのも困りものです。
今後の体制強化を期待しつつ見守るしかないようです。


また厚生労働省は平成27年から、児童相談所全国共通ダイヤルを3桁の番号189(いちはやく)に変更しました。
これにより、電話による相談数が増えましたが、万全とは言えないのが現状です。
189の運用を開始した平成27年7月から、入電数は前月の15倍に増えました。
しかし、正常に接続されたのはその8分の1程度でした。
最新のデータだと、平成29年6月の接続率は21.0%です。
まだまだ、こちらも整備不十分なのが現状みたいです。


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児童相談所等への通告

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次のこのグラフは、児童虐待の通告経路を表しています。
これによると、警察以外では近隣知人からの通告の割合が2番目に多いことがわかります。児童虐待防止法では、

児童虐待防止法第6条
 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所(又は児童委員を介して、市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所)に通告しなければならない

と定められています。


児童虐待の場合、虐待の加害者である親自身が、「虐待をしてしまう自分」に対して悩み苦しんでいるケースがあります。
通報することで、虐待をしてしまう親が児童相談所に相談するきっかけをつくるということもあると思います。
最悪のケースに至る前に、虐待をしてしまう親に手を差し伸べることも重要です。


児童虐待をするのは、決して限られた異常者だけがするものではありません。
児童相談所に相談することは、警察に通報するのとは違います。
育児に悩んでいる親が、親子関係を健全に保つために相談ができる場所です。
「児童相談所に相談する親=児童虐待をしそうな親」というイメージにならないように気をつけなければなりません。
今回のような事件のニュースを聞くたび、「児童相談所=児童虐待対策only」なイメージが強くなるのではないかと心配になります。


国家権力による家庭への介入

様々な課題が残る中でも、国家権力による家庭への介入をどこまで認めるかという問題があります。
子供には「親に教育される権利」が、親には「教育する権利」が認められています。
子どもの権利・親の権利を尊重するか、家庭へのパターナリスティックな介入を行うか。
またどのレベルの虐待で家庭への介入を許すのか。


今回の事件に関して思ったことは、それぞれの機関の役割分担をはっきりすべきなのではないかということです。
児童相談所は、あくまで親の協力の下、親子関係の修復に全力を尽くす。
親の協力が得られない場合、改善が望めない場合は、「直ちに」警察に託す。
もう、それくらいの介入はあって然るべきなのではないでしょうか。


児童相談所は、データを見る限り、限られた人的資源の中で成果を上げていると思います。
ただ、できることとできないことがあるのだと思います。
コンビニ店員のようにあれもこれもやる、というわけにはいかないと思います。
直ちに介入せよ!というのも短絡的かもしれませんが、どういうシステムが整えば今回のような事件を防げたのか、改善策を社会全体で考えていくしかありません。


さいごに

私は幸運にも児童虐待を受けることなく過ごせてきました。
だから、児童虐待を受けた子の辛さ、悲しさを本当の意味では理解できていません。
子供が親から引き離されて生活することなど想像もつきません。


今回、約178人に一人が児童虐待を受けているということに驚きました。
まあ、一年のうちに同一の親が複数回虐待していることも考えられますが、それでも多い。
1万人に1人、多くても数千人に1人くらいだと思っていました。
自分とは遠いところで起こっているものだと、甘く考えていました。


5才の子供がひらがなで文章を書く。
それも「反省文」を。
自分が悪い子だと思ったまま亡くなってしまった。
愛されたいと思って改善しようと頑張ろうとしていた。
こんなにされてまでそう思うものなのか、と心が痛みます。
あの「反省文」を目にすると鼻の奥がツンとして、未だに目を背けてしまいます。


どうか、来世では優しい家族の下に生まれますように。



参考資料:平成29年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料(平成29年8月17日)
     児童相談所での児童虐待相談対応件数(別添2)

人口(千人)H2915才以下の人口(千人)H29社会福祉司数H28相談件数H28速報値福祉司一人あたりの相談件数
北海道5320588111482143.4
青森県12781413894925.0
岩手県12551443094231.4
宮城県232328049155531.7
秋田県9961012441017.1
山形県11021302033116.6
福島県18822204195623.3
茨城県289235555203837.1
栃木県195724543111626.0
群馬県196024136114231.7
埼玉県73108991781161465.2
千葉県6246755141791056.1
東京都1372415422271249455.0
神奈川県915911222321219452.6
新潟県226726558184531.8
富山県10561241962933.1
石川県11471452984629.2
福井県7791011451036.4
山梨県823992097048.5
長野県207626043190944.4
岐阜県200825841100424.5
静岡県367546489249628.0
愛知県75251010221704431.9
三重県180022637131035.4
滋賀県141320037128334.7
京都府259930893270629.1
大阪府882310692741774364.8
兵庫県5503692120409234.1
奈良県134816320146773.4
和歌山県94511231114036.8
鳥取県5657219844.4
島根県68585222149.7
岡山県19072434992218.8
広島県282936861348057.0
山口県13831643555115.7
徳島県743852365828.6
香川県9671201995950.5
愛媛県13641643080330.1
高知県71480332918.8
福岡県5107675122419434.4
佐賀県8241131527518.3
長崎県13541732866523.8
熊本県176523752109021.0
大分県115214321123058.6
宮崎県10891462863122.5
鹿児島県16262172935212.1
沖縄県14432474571315.8
合計12670815591300212257833.2



タグ:社会

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